ドーラの撮れたDay

漫画や小説の聖地巡礼と街歩きが大好きで、素敵な出会いを楽しみながら写真で綴っています。

感想『村上隆もののけ京都』展、異界の入口へ

村上隆の大規模展覧会を観るのは前回の『五百羅漢図展』から8年ぶり。今回は京都だけの開催のため、祇園祭の時期に合わせて行きました。後から調べたことも追加しつつ、感想をまとめました。

 

最初に思ったのは、展覧会のタイトル『もののけ京都』とは何だろう?「もののけ」が沢山いる京都?京都そのものが「もののけ」?などなど、想像をめぐらしつつ会場の京セラ美術館に。

 

展覧会入口。強そうな阿吽像が待ち構えていました。右が《阿像》、左が《吽(うん)像》。東日本大震災をきっかけに制作されたもので、「自然災害や病魔などの災いから人々を守ってほしい」という願いが込められているそうです。

背景の壁には桜の「お花」たちが咲き乱れる。場所が京都とあれば、桜の森が人を狂わす坂口安吾の小説『桜の森の満開の下』を思い出します。ニコニコとかわいい「お花」もきっとダタものではないですね。

 

🌈村上隆の目に映る洛中洛外図、祇園祭礼図

 

《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》一部 会場に入っていきなり全長13メートルもある大作に対面。戦国時代から江戸時代初期にかけての絵師、岩佐又兵衛のオマージュ作品です。

びっしりと京都の町や人々が描かれ活気に溢れているようですが、金色の雲の中に無数のドクロが塗り込まれ「もののけ」に支配された世界を感じました。

 

《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》を観て後ろの壁を振り返ると、新作《村上隆版 祇園祭礼図》が広がっています。こちらも全長10mと横に長い。17世紀後半の《祇園祭礼図屏風》(細見美術館)をもとに制作されたそうです。今よりも山鉾の形が簡素ですが、分かる山鉾はないかと目をこらして探しました。祇園祭もまた疫病退散を願う祭礼。

 

≪村上隆版 祇園祭礼図≫一部 中央に長刀鉾の辻回し。刃先も描かれています。左は釣り竿を持っているので占出山でしょうか。見物の人たちの様子もさまざまに。

 

長刀鉾の後ろに、はしごと臼を運ぶ牛が続いていました。現在の辻回しは割り竹を敷いて上に山鉾を載せて滑らせ曲がる方法ですが、京都新聞の記事によると、「はしごと臼で鉾を持ち上げて方向転換していたのではないか」とのこと。歴史を映しています。

 

≪村上隆版 祇園祭礼図≫一部 左は筍を持っているので孟宗山、右は白楽天と道林禅師を乗せた白楽天山でしょう。金色の雲や花にもドクロ、上にはのんきそうな顔の雷神。

 

≪村上隆版 祇園祭礼図≫一部  中央にカマキリが見える蟷螂山、その右隣は鎧と太刀を付け梅の枝を持っているので保昌山。いちばん右は斧と琴にちなむ伯牙山。

 

≪村上隆版 祇園祭礼図≫一部 右に神輿が見えます。上に風神も。

 

《京都 光琳 もののけフラワー》 尾形光琳≪菊花流水図団扇≫ のオマージュ作品で金箔の波模様や花の色が美しい! 

 

🌈京都の東西南北を守る4神

大きな暗い部屋の中に入ると、四方の壁に高さ5mものカラフルな絵画が浮かび上がりました。京都の東西南北を守護する4神の姿です(東の青龍・西の白虎・南の朱雀・北の玄武)。青龍は鴨川、白虎は山陰道、朱雀は巨椋池、船岡山は玄武に見立てられているそうです。中央には、京都の災厄を知らせる鐘楼を題材とした《六角螺旋堂》。

気がつくと、部屋の壁や床はドクロで覆われていて、鳥辺山や化野、蓮台野といった死に関わる場所を思い出させました。厄災が多く死が身近にあったからこそ、現世を超える想像力と深い祈りが、この京都で育まれたということでしょうか。

 

京都の南を守る≪朱雀≫一部

 

京都の北を守る≪玄武≫一部

 

🌈村上隆のつくったキャラクターの「DOBくん」

DOBは村上隆が提唱した「スーパーフラット」の概念を体現するキャラクター。「DOB往還機」と題した展示室では、時代を往還するDOBくんが様々な姿で現れました。

 

≪レインボー≫

≪772772≫ DOBが血を流しながら戦っているようです。

 

スーパーフラットとは

ファインアートとアニメ、芸術と芸能など、あらゆる差異の境界があいまいで全てが並列にある現代の日本社会の構造に可能性を見出そうとする芸術理念

(TOKYO BEST  ART 6/24 山田五郎談)

 

🌈江戸時代の絵師たちへのオマージュ

展覧会のシンボルとなっている≪風神雷神図≫。俵屋宗達《風神雷神図屏風》をもとにした村上版2点が並びます。村上さんのお話では「風神雷神はその時代に必要とされる姿で描かれてきた。ゆるい姿は、現代では厳めしい風神雷神は求められていないから」とのこと。風神雷神の力ではどうにもならない状況が来ているのか?とも思いました。

 

≪風神図≫

≪雷神図≫

曽我蕭白の影響を受けて描かれた雲竜赤変図。長いタイトルですが、《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》。勢いある筆遣いにほとばしる赤い色!凄い迫力です。

 

《金色の空の夏のお花畑》 尾形光琳《孔雀立葵図屏風》を思わせる作品です。光琳の立葵が村上隆の「お花」になっているわけですが、「お花」の色づかいや模様のバリエーションが豊かで、デザインの見本帳を見るような愉しさです。

🌈人々を救いへと導く村上版の来迎図

 

《見返り、来迎図》阿弥陀如来は京都永観堂にある「見返り阿弥陀(木造阿弥陀如来立像)」、後ろの菩薩たちは春の法然展で公開された観た京都・知恩院の「阿弥陀二十五来迎図」もモチーフになっています。

来迎図とは浄土信仰に基づく仏画で、阿弥陀如来が菩薩たち を従え、死者を極楽浄土に迎えるために人間世界に下降するようすを描いたもの。

 

阿弥陀如来も菩薩たちも、お顔がインドの人ですね。

 

🌈さすが当代きっての絵師!村上隆が描く役者絵

《2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番》(海老蔵が団十郎を襲名したときの祝幕の原画) 原画も幅4mと大きいですが、実際に劇場に掛けられた祝幕は、幅31.8m×高さ7.1mもの大きさだそうです。

 

《2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番》一部 「ういろう売」に登場しているのは八代目市川新之助かな。

 

🌈最後の展示室で≪五山送り火≫

 

《五山送り火》 天野山金剛寺にある「日月四季山水図屏風」のデザインを借りた作品。「五山送り火」とは毎年8月16日に行われる宗教行事で、お盆に帰ってきた精霊(先祖)が黄泉の国に帰るのを見送るために、京都を囲む5つの山で松明を灯すというものです。

2024年の「五山送り火」はテレビBS11]の生中継があり、ゲストに村上隆さんが出演されるとのこと。

 

🌈金色に輝く「お花の親子」

 

≪お花の親子≫ ルイヴィトンとのコラボ作品で、京セラ美術館の日本庭園にある池の中に立っています。トランク部分も含めて高さ13m!

ルイ・ヴィトンのモノグラムは日本の家紋にインスパイアされたとか。美術館の上の方から観ると、背景の東山も池に映った金色の親子もよく見えて、コラボがいっそう楽しめるでしょうね。

 

 

可愛いおみやげグッズがいろいろありました。公式図録は後日通販で入手。展覧会を構想された京セラ美術館のキュレーター高橋信也さんの文章が素晴らしく、とても勉強になりました。会場で読み切れなかった村上隆さんの言葉も記載されていて、価格6600円はお買い得だと思います。来場できない人にもお薦めです。

 

🌈さいごに

展覧会を経て今、村上隆作品を通じて京都にもどんどん興味が湧いてきます。祇園祭という特別なタイミングもあって、私の日常では触れることのない長い京都の歴史と、その影にあった厄災や祈りの形にどんどん引き込まれてしまいます。村上さんの作品の中に、どれほど多くの京都や日本の文化が詰まっているのでしょう!

公式図録に書かれた高橋信也さんの文章によれば、この展覧会タイトルの「もののけ」とは怨霊、死霊といった意味だけでなく、広義の「この世ならぬもの」「異界のもの」として捉えられるとのこと。私が魅了されはじめているのは、その異界の表現なのかもしれません。マイブームはまだまだ続きそうです。